こんにちは。
ここしばらくは、暖かくて、そのせいか昨夜は雨振り。
ひと雨来るたびに、冬の気配は濃厚になっていきます。
暗くなるのが本当に早くて、自然と家路を急いでしまうような。
窓からこぼれる灯りを見て、ほっと心が和むような。
紅茶やそれにまつわるものたちが、一層愛おしく感じられる、
そんな季節です。
先日、イギリス各地を周遊して、その土地土地でお茶や
食事をいただいて帰国しました。
いずれも地産の素晴らしい素材を生かした、
地域色の強いものばかり。
それぞれの特徴ははっきりとありますが、
全体としてとても印象に残ったこと。
それは、小麦、小麦粉というものに対する、真摯な姿勢。
敬意さえ感じられるほどの印象を受けました。
ご存知のように、イギリスはとてもパンを大切にします。
その典型がブレッドプディング、そしてそのスペシャルバージョン
である、クイーン・オブ・プディングです。
グルマンの国、フランスから見れば、
ともすれば“質素”とされるようなお菓子
クラシックなプディングの一種、アップル・ブラウン・ベティは
リンゴにパン粉のクランブルを振りかけて焼いたもの
お茶のお供のティー・ケーキは、今の私たちから見れば、
ただレーズンパンに過ぎないかもしれません。
少ない期間で回るには驚異的な数のティールーム、そこには必ず、
ヴィクトリア・スポンジ(サンドウィッチ)・ケーキが
さも女王然とした佇まいで我々を誘惑します。
これもバターケーキ生地にいちごジャム、
近年はバターリッチなクリームを一緒にサンドしただけのもの
華やかなパティスリーを見慣れた目には、なんて素朴な、と
映ることでしょう。
でもどれも、しみじみ美味しい。
熱い紅茶と一緒だと、最上のくつろぎに満ちた美味となります。
寒い冬や、人生の海に揺られている時に、この美味ほど、
心をあたためるものはないのではないでしょうか。
麦穂を大切に、愛情を持って接するからこそ、このようなお菓子が
ずっと不変に、愛され続けるのだと思います。
その胸が熱くなるような、想いや愛情が忘れられず、
私は、帰国してからというものずっと、
ヴィクトリア・サンドイッチ・ケーキを焼いています。
トリントンで心がけているのは、生地感を美味しい紅茶と一緒に
味わっていただくこと、お腹が満たされて心が満たされること
そして美しい茶器を使ってお茶を飲むことの素晴らしさを
感じていただくこと
この心がけに、このケーキはとても合うような気がします。
そしてその興奮冷めやらぬまま、
今度は短い期間ですけれど、パリへ。
こちらは変わって自炊中心なので、どんな新鮮な素材に出会えるかが、
とても楽しみなのです。